85. 知らないまに 無くなっちゃう

「留守だったから駅前の喫茶店で時間つぶしてたけど、
もう遅いから帰ることにする。会社には電話しにくいかもしれないけど、
お昼頃なら、俺が出るようにするから、明日でも、くれよ。」

みたいなことが書いてあった紙切れ。
たぶん、喫茶店で貰ったんでしょう。

デッサン教室にまた昼間に通い始めました。
メンバーもいれ変わっていたみたいで・・・。
職安に行って失業保険の手続きして、それで何してたんだったかしら、
あのころ。

辰井さんにも時々会っていたし。アパートに行くこともあったけれど。

絵を描くことにも、あまり集中できなかったし。

あの夏、覚えているのは昼間プールで日向ぼっこしたことかなあ。
結婚式場がやっている屋外プール、植え込みの緑がきもちよくて、
泳がなくても、いや、泳げないのにビキニの水着で、
朝十時頃からお昼過ぎまで、一人でぼーっとしていた。

何も起きないうちに、夏が行ってしまった。

秋になって、あなたから絵はがきがきました。
「仕事決まりそうです。引っ越しもするかもしれません。」
きれいなモダンな、モノクロ写真のポストカード。
大きいので80円切手が貼ってありましたね。

細い鉛筆で書いた大きくてきれいな字。
下駄を履いていた足の指みたいと、思いました。
あの絵はがき、とっておいたつもりだったのに、いつの間にか
なくなってしまった。
大事なものって、たいてい知らない間に無くなっちゃうんだ。
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by chigsas | 2010-04-27 16:56 | 小説