86. 鏡の向こうから 見ているだけ
あなたのこと忘れていたわけではない。
私は二つに千切られて、片方の私は
あなたを抱えたままどんどん縮んで重くなっていました。
もう一方の私は、どうしていたのかしら。
もう片方の重い自分を引きずりながら、規則的にデッサン教室に通ったり、
月に一度職安に行ったり、
ちゃんとオシャレをしたり、服だってバーゲンで買うことおぼえたり、
お料理もしたり、辰井さんにも、ときどきお料理つくってあげたり、
まあ、ちゃんと暮らしてたんです。
時間もあったから。
そうだ、うちに、父さん宛だけれど、
時々はがきだって書いていたし、尤もこれは、あなたの入れ知恵でした。
「元気でやってます。だけでいいから、
おばさんに手紙書いて上げると、安心するよ。
あんなに心配してるんだから。
本当は、電話の方がいいけれど、
声で、ようすがわかるから・・・」
あなたが、あのアドバイスくれたの、いつだったかしら。
わたし、あなたの言うことは、
たいてい聞いたんですよね、いつも。
「様子なんてわかられたくないよ!」
っていいながら。
でも、あなたは鏡の向こうからこちらを見ているだけ、でした。
私は二つに千切られて、片方の私は
あなたを抱えたままどんどん縮んで重くなっていました。
もう一方の私は、どうしていたのかしら。
もう片方の重い自分を引きずりながら、規則的にデッサン教室に通ったり、
月に一度職安に行ったり、
ちゃんとオシャレをしたり、服だってバーゲンで買うことおぼえたり、
お料理もしたり、辰井さんにも、ときどきお料理つくってあげたり、
まあ、ちゃんと暮らしてたんです。
時間もあったから。
そうだ、うちに、父さん宛だけれど、
時々はがきだって書いていたし、尤もこれは、あなたの入れ知恵でした。
「元気でやってます。だけでいいから、
おばさんに手紙書いて上げると、安心するよ。
あんなに心配してるんだから。
本当は、電話の方がいいけれど、
声で、ようすがわかるから・・・」
あなたが、あのアドバイスくれたの、いつだったかしら。
わたし、あなたの言うことは、
たいてい聞いたんですよね、いつも。
「様子なんてわかられたくないよ!」
っていいながら。
でも、あなたは鏡の向こうからこちらを見ているだけ、でした。
by chigsas
| 2010-05-04 20:10
| 小説