87. 私では ないから平気 へいきだよ

いいえ、こちらを見ようともしないで、アドバイスくれただけだった。ね? 
そうだった、よね。

親って、なんなんだろうか? 私ってなんなんだろうか? 
家族って?

そう思っても、、実際には父さんの顔も母さんの顔も、思い出しもしなかった。

鏡の向こうには、俯いているあなた。
それと、多絵子さんの、まっすぐ前を向いて歌っている顔だけ。

今、気がつくんだけれど、プールで日向ぼっこしているとき、
頭の中を行ったり来たり、浮かんでいたのは
あなたと多絵子さんだけだった、ような気がします。

ホントは何かが、私の中で起きていたのに、気がついていなかった。
だから、起きていないと同じだった。

金田さんが連れて行ってくれた美容院の椅子に座っていた私、
鏡の中で自分をにらんでいた私。あの目がホントの私だったかもしれない。

あなたは私を見たくなかった。
でも、本当の私があんな人だと、もしかしたら、
わかってくれていたかもしれない。ね、違う?

ときどきは美容院にも行くようになって、美容院の椅子に掛けて鏡に映る私、
糸が切れたタコでした。
そう。だんだん普通の子になっていたんです。

「これは私でないから、平気平気、へいきだよ」
って鏡に向かって言っていました。


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by chigsas | 2010-05-12 17:23