96. きれいな モスグリーンの 急須

あなたびっくりして、テーブルの向こうで立ったまま。
手に小さな緑色の急須持って。きれいな、モスグリーンの急須でしたね。
急須のふたを押さえていた右手の人差し指、
ピーマンを解体していた指、でした。

「あたし、死んじゃうよ。子供なんか産んだら。」
「・・・・・・・」
「死にたくなんか、ないよー。こわいよーッ」

しばらく立ったままでいた、あなた。
私に何がおこっているか、やっと気づいた? らしかった。けれど。

私は、そのとき自分の言ったことも、したことも、分かっていなかった。
ほんとは、何も憶えてもいない。多分そんなことを口走ったんだ。
きっと。

泣き始めてから、どのくらいの時間が経っていたのか。
もう、涙は乾いて、テーブルに顔を伏せて、
泥の詰まった大きな袋になって座っていました。頭の中は空っぽ。

「このちゃん、たしか、親しい、友達、いたねえ。女の人で。」
バッグから手帳をだして、田中さんの電話番号見せると、あなた、
奥の部屋に行きました。

「あ、田中さんですね。・・・・・・・・・
・・・・・・・・。じゃあ、おおた、このみさんに、かわります」
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by chigsas | 2010-08-13 11:54 | 小説