106. 小さな 石の 一つが

二人でどのくらい黙っていたのかしら。
何秒だったか、何分だったか、
何時間も、だったかもしれない。

「今日からあたし、ちゃんと働いています。
その報告の電話しなけりゃとおもって」
なぜ、あんなに元気で明るい声が出たのかしら。
普通にしゃべれたの、奇跡みたい、
と、今だって思っています。

まるで誰か別の人の声みたいに、
あのときの自分の言葉、今も耳に残っています。

「あ、よかったね。」
あなた、そういったと思ったけれど、
そうじゃなかったかもしれませんね。
「今日ではないけれど、近いうちに、
仕事のこととかおしゃべりにいってもいいですか?」

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「あ、うん。」

もしかしたら、なんにもいわなかったのかしら?
「じゃあ。また、電話します。」
あなたがなんて答えたか、覚えていません。
多分黙っていただけだったんでしょうね。

電話を切った。

私が抱えていた重い石の中の小さい石一つが、
あなたに、トンと移った。
by chigsas | 2010-10-20 11:22 | 小説