108. 机の 右上の 空き缶

調子良いこと言ってしまったけれど、
何もわからない人に教えるくらいなら、自分でしてした方が早い。

なにも言わなかった竹内さん、正直な人と思いました。
多分、次の日から竹内さんは、ちゃんと事務所に出てきました。
私とだいたい同じ時間にきて、自分の机を拭いて、仕事を広げる。

まだ、あの頃は原稿用紙使っていました。
柔らかい鉛筆で丁寧に原稿用紙を埋めていく。
そう、机を拭いたら鉛筆をシャープナーで削って、
机の右上の空き缶にたてるのが朝一番の仕事だったみたい。

境事務所の朝をちょっと思い出したけれど、ぜんぜん雰囲気は違いました。

鉛筆削りが終わる頃ちょうどお茶を入れると、美味しそうに、ゆっくり飲む。
私も、なんだか、ふーっと大きな息を吐いてしまうくらい、
時間がトローンと滑らかに流れました。

竹内さん、ちょっと足を引きずっていました。
当たり前の顔しているので、私も篠原さんも、
気にはしなかったけれどはっきりそう分かる程度のびっこ。

お茶を飲み終わって、竹内さんが
大きくて膨らんだ紙袋から出して机に広げた書類。
雑誌の割り付け用紙というものを、初めて見ました。
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by chigsas | 2010-11-08 11:10 | 小説