130. 細い脚 コートの裾

「えっ? 野田の?」
と口の中でモゴモゴいいながらチェーンを外して、ドアをあけました。
お母様ドアから一歩下がった。
冬のさなか、中ヒールの靴、細い足と、重そうなオーバーコートの裾。

「どうぞ、お入りになって」
ちっともあなたに似ていない、と思ったのだから、
もうそのときはどなたか分かっていたんだ。   

「この辺り、若いときに一寸土地勘があったから。
駅前の交番で聞いただけでそのまま来られたの。温かなのねえ、ここ。」

あなたの事務所に電話しようとしたら、
「まだいいの、いいの。木の実さんと話したいから」
「真雄には昨日、事務所の方へ電話してあるし」

何を話されたのか、私が何を言ったのか。ほとんど記憶がない。

あの頃にはもう、私もあなたも、糸の切れたタコだったんだ。
ふたりとも。
ほんとはずっと、そんな気がしてたんだ、あたし。
そうだね、ホントにそうだったんだ。
今になると、はっきり分かるよ。
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by chigsas | 2011-05-13 17:20 | 小説