141. 消えてしまった どこにも なくなった

あたし、あなたが仕事しているのを、傍で見たことがなかったんだ。
あなたの仕事場に行って、いっしょに帰る時、定規を丁寧に拭いて
鉛筆もロットリングもちゃんと決まったところに立てて、
床の消しゴムの屑を丁寧にほうきで集めて、
ちりとりでとる。

それから最後に机の上を乾いた雑巾で拭いているのを待つていて、
「あなたは野生動物だ」と思った。
そのたびに、いつも、
あの最初に見た下駄をはいた足が頭をかすめたの、なぜかしら?

もう、消えてしまった、どこにもなくなったあなたの仕事場、
「あそこへ行こう!」って何度も思うけれど。最近。
もう消えちゃったあそこへ行きたい。

生成りのきめの粗いシーツ。ピロケース。
このざらざらした肌触り。

今は、あなたの匂いがここから少しずつ消えているかもしれない。
気がつかないうちに。
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by chigsas | 2011-07-27 09:42 | 小説