3.何も理解してなかった?

わたしたちの結婚、周りでは誰も、唐突とは思わなかった。
大兄さんなんて、
「そーかっ、あいつー、やっと決めてくれたかっ。」
すぐに返ってきた声があまり大きかったので思わず受話器、耳から離して、眺めてしまったほど。むかしの、あの黒い電話機の重さ、思い出します。

単純な兄は、心から嬉しそうでした。
ったく、人の気も知らないで・・・。
でも、小兄さんは、少し沈黙の後、「そう、・・・」
そして「よかったな」小さな声。もしかしたら、なにもかも承知していた。
あなたとは高校3年間同じクラスでクラブも同じだった、。田繪子さんとも同じクラブだった。

気にしていたのは私だけだったかもしれませんね。
小兄さんは、大学も地方を選んでさっさと家を出て、卒業するとその県の県庁なんかに入って。
あの頃、二人目の子どもが生まれるとか言って。あなたとも、ほとんどおつきあい無かったから。
あなたと私の結婚なんてどうでも良かったのかもしれない。

次の日ほんとに久しぶりで、東町の家にも帰って、父さん母さんと夕飯いっしょにしました。
「ん?、もうその話はとっくに消えて、というか、棚上げのままにしておくもの、と思ってたよ。そーか、良かった。うん・・・。」
父さんは晩酌の手をちょっとの間宙にとめてから、私を見ました。
私、ふと、父さんから目をそらせてしまったの、父さんどう感じたかしら。
今となっては聞く術もないけれど。

あの頃急に小さくなっていった父さんの、骨張って、染みの浮き出ていた手。
母さんの反応は何故か、ぜんぜん覚えていない。
手に負えない娘がやっとなんとか落ち着いてくれると、ほっとしていただけですね、きっと。
それまでの15年以上私のしてきたこと全部、彼女の想像の埒外だったから。
父さんが歓んでいるならいいことだと判断するしかない人、だっただから。
でも、どちらにしても、二人ともなんにも理解してなんかいなかった。

もっとも、理解されたら、一番困るのは私だったんだけれど。


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by chigsas | 2009-07-08 15:21