9.一部咲きの桜
あのくらいの年頃の女の子の嬌声や笑いに含まれる何か、
おとなには我慢ができないこと、今は分かりますが、
あの時は二人とも、只苦しくて笑いころげていただけ。
「あいつ、芸大受けるからと言って両親説得したんだって」
これも、小兄さんが言ってたこと。
「公立なのに美術部が良いから予備校に行かなくてもいいと。
それで、おやじさんの後輩の家に下宿できることになったんだって。」
親が煙たい年頃の兄は少しうらやましそうでした。
お父様はちゃんとしたサラリーマンにしたかったけれど、
「長男じゃないんだから好きにさせて・・・」
とお母様が応援したって聞いて、うちの母さんとは大違いだと、
私もすごく羨ましかったんです。
我が家から線路を越えて公園を抜けた、静かな古い住宅街にある、
昔風の家。古い造りなのでちょっと暗いけれど、
普通より多分広めの六畳、玄関のすぐ脇の部屋でしたね。
「全然美術部の男の子らしくない部屋だったねー」
笑いが収まって、美代ちゃんがいったひとことに、私もうなずきました。
公園の一分咲きの桜、大笑いした後のあの寂しいふたりの気分。
春休みっていう言葉といっしょに浮かんでくる景色は
いつもあの桜と、あなたの部屋です。
あなたの部屋が余りに整然と片付いていること、兄二人の部屋の
ごちゃごちゃ加減見なれていた私には、驚きでした。
兄二人の部屋っていっても、大学生だった大兄さんは夜帰って寝るだけ。
そのうえ、友達の所に泊まることも多かったから、
小兄さんの物が占拠していて、油絵の具の匂いがする乱雑な部屋。
古くて広めの洋間は居心地がいいらしく、
美術部の男の子たちが集まってくる部屋でした。
「田絵子さん」て、そこで時どき耳にする名前だったんです。
おとなには我慢ができないこと、今は分かりますが、
あの時は二人とも、只苦しくて笑いころげていただけ。
「あいつ、芸大受けるからと言って両親説得したんだって」
これも、小兄さんが言ってたこと。
「公立なのに美術部が良いから予備校に行かなくてもいいと。
それで、おやじさんの後輩の家に下宿できることになったんだって。」
親が煙たい年頃の兄は少しうらやましそうでした。
お父様はちゃんとしたサラリーマンにしたかったけれど、
「長男じゃないんだから好きにさせて・・・」
とお母様が応援したって聞いて、うちの母さんとは大違いだと、
私もすごく羨ましかったんです。
我が家から線路を越えて公園を抜けた、静かな古い住宅街にある、
昔風の家。古い造りなのでちょっと暗いけれど、
普通より多分広めの六畳、玄関のすぐ脇の部屋でしたね。
「全然美術部の男の子らしくない部屋だったねー」
笑いが収まって、美代ちゃんがいったひとことに、私もうなずきました。
公園の一分咲きの桜、大笑いした後のあの寂しいふたりの気分。
春休みっていう言葉といっしょに浮かんでくる景色は
いつもあの桜と、あなたの部屋です。
あなたの部屋が余りに整然と片付いていること、兄二人の部屋の
ごちゃごちゃ加減見なれていた私には、驚きでした。
兄二人の部屋っていっても、大学生だった大兄さんは夜帰って寝るだけ。
そのうえ、友達の所に泊まることも多かったから、
小兄さんの物が占拠していて、油絵の具の匂いがする乱雑な部屋。
古くて広めの洋間は居心地がいいらしく、
美術部の男の子たちが集まってくる部屋でした。
「田絵子さん」て、そこで時どき耳にする名前だったんです。
by chigsas
| 2009-07-22 02:02