11.反射鏡 のように

でも田絵子さんは、どちらかと言えばひっそりとしている、
目立たない女の子と私は、それまで思ってました。
見かけだって美人というわけではない・・・。

「あざやかーな みどりよー あーかるーい みどりよー」
雑然とした美術室に、静かな声が、ゆっくり広がっていった時、
ぼーっとしていた私、首回して、声のほうを見ました。

みんな同じだったのか、部屋が急に静かになりました。
立って歌っていたの、田絵子さんでした。

展覧会の反省や感想など、一通りの話がすんで、
ちょっと空気がゆるんできた頃、
「だれか、歌うたいませんか? まず、くぼた君?」
とか進行係の声があって。

いつも文化祭などでもよく出てくる
あなたのクラスの人、シューベルトの冬の旅かなんか歌って、
続いて何人かあの頃はやっていたポップスとか、
映画の歌とか、よく覚えてないけれど、そんな後でしたね。

少しざらっとしているのに、やわらかに伸びていく声。
伏し目がちに、でも、まっすぐを見つめている目、
彼女の描く女の子の目と同じでした。

繊細で重い何かが彼女の中から流れて、部屋にあふれ、
そのまま窓から空へと広がっていくようでした。

歌声がやんで、一瞬静かになって拍手しながら、
向こうの隅で机に目を落としていたあなたをそっと見て、
わたしも俯いてしまいました。

誰とも口ききたくない帰り道の心の重さ、
まだ明るい春の夕方の寒さ・・・。

あれは、「青春」という言葉の明るさと寒さだった。
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by chigsas | 2009-07-26 14:25