13. ちいさな点 ふたつ

その日の見学は田絵子さんと二人だけでした。

数が少ないので、学年全体の女子がまとまって受ける体育の授業。
女生徒に甘い体育教師は、ずる休みに近い見学も無条件に許してくれる。
だから寒い時期は、体育館の陽の当たる壁際には
見学の生徒が何人も並んでましたね。

もっとも熱血先生の「しんぞうちゃん」なんて
男子には厳しかったらしいから、
体育館の景色も、男子の授業では全然ちがってたかしら?

私、一年の一学期に風邪の後軽い腎臓炎にかかって、
お医者様に体育の授業見学するように言われたのをいいことに、
そのあともずっと半分くらいは見学。

田絵子さんは、二学期の初めくらいから見学するようになっていた。

急に、体育館が広い空間になりました。
みんながバレーボールしている動きも、先生のかけ声も遠のいて、
私と田絵子さんだけが、小さな二つの点になって、
宇宙の中心になって・・・。

そのとき、私の心のスクリーンには、
田絵子さんの歌声が広がっていった美術室で
机の上に目を落としていたあなたの横顔が、
大写しになっていました。

「辻さん、死にたくない。って言ってる、んですって」

卒業して行き来のなくなった美代ちゃんにばったり出会った。
どこだったか思い出せないけれど、神保町あたり。
近くのケーキ屋さんの喫茶室に腰おろして、
美代ちゃんの口から最初にでた言葉でした。

三年になると、田絵子さんはほとんど見かけなくなっていました。
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by chigsas | 2009-07-30 11:37