21. 広い空 飛べたら

駅について切符買って改札口へ急ぐ人の波から少し外れて、足、止めました。
ハンカチのデザインしている工房に行き始めたこと、簡単に話してから、
「ありがとうございました」
って、お辞儀して、顔を上げたら、あなたの笑っている目にであいました。
多分私、ぴょんと回れ右して、改札口に駆け込んだでしょう。
あなたが見送ってくれている様な気もしましたが、本当はあなた、
さっさと回れ右して帰っていったのでしょうね。

私が初めて借りてもらったアパート、寂しいところにありました。
ゆったりした広い敷地に、大家さんとは別棟で建つ、2階建て。
うちからは私鉄で二つめの、小さな駅から歩いて15分。

そのころはまだ、住宅の間に栗畑なんかあったりして、
母さんが不動産屋さんに行って決めてきてくれた部屋でした。
周りの環境と大家さんの人柄で決めたんだと母さん言ったけど、
まだ小さな子どもがいる若い奥さん、親切で優しい人でした。でも私、
あの頃そういういい人はちょっと苦手だった。

そんな寂しいところだから、夕方は早く帰るだろうと読んでいたらしい。
私の部屋は2階の3部屋の真ん中、日当たりもいい気持ちよい部屋でした。
昼間ずっとこの部屋にいて、本読んで一日過ごせたら幸せ! 
と、本気で思いました。

母さんと父さん二人がかりで、ベッドとか日用品の荷物運び込んでくれて。
当座の食糧も小さな冷蔵庫にいっぱいに詰め込んでくれて・・・。私は、
「これじゃあ冷蔵庫ちっとも冷えないで効率悪いよ」
とか、見当外れの文句言うのがせいいっぱいでした。

それでも、夜一人になれたときの嬉しかったこと。
広い空を翔けているような・・・
いろいろ全部が一気に解決できるような。でも錯覚でした。
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by chigsas | 2009-08-16 10:46