25. お客様 してたんだ

2日目、9時半ぎりぎりに工房に着いた私に、一番年かさの女性が、
「新人はちょっと早めに来て部屋のお掃除と、みんなにお茶いれて・・・」
と、少しきつい調子で言いました。

若い女性ばかりの中で、この人だけ五十は超えているようにみえましたが、
あとで聞くと、オーナーの奥さんのお母さん。
着物の柄を染料で直接反物に描く仕事をしていて、
台所の蒸し器は反物を蒸して仕上げていたものでした。

家でもお茶なんていれたこと無かった私が慌てて台所へ立つと、
「今日は山本さんがしてくれてので、明日からお願いします」
前日私はお客様していたんだとわかりました。
山本さんらしい人が私の方を見て、頷きながらちょっと笑う。
彼女、私に教えてくれるつもりらしい。

2日目で初めて私に笑いかけてくれた人、でした。

「今日はとりあえずみんなのしていること、見ていなさい」
前日の朝、最初にオーナーに言われた。

それぞれの人が自分のデザインを描いていました。
ポスターカラーだったり、カラーインクだったり、技法もいろいろ。
画材も紙も自分のものを工房に置いているらしい。

変な若い子が飛びこんできた、という感じで、その日は誰からも完全に無視。
でも、知らない遊園地へ一人で迷い込んで遊んでいるようで、
私には楽しい1日だったんです。

棚の雑誌を見たり、製品になったハンカチやスカーフのファイルを見たり。
私が欲しいものは無いけれど買う人いるのかしら
と余計なこと考えたり。

口をきいたのは、全部で4回。
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by chigsas | 2009-08-24 06:33