26. 公園の ブランコで

口をきいたのは、全部で4回。
「おはようございます」
駅の傍の文房具屋さんで買った履歴書用紙に適当に書いた
履歴書を渡すとオーナーが「タダさんじゃあなくて、オオタさんなのね」。

「はい、ただではありません」
わざと『唯』に聞こえるように言ったので、
誰かがくすっと笑ったようでした。
お昼に、「駅の近くにあるパン屋さんでお昼買ってくるといいよ」
とオーナーに言われて、

「はい。そうします」
帰りに

「さようなら、明日もよろしくお願いします」

あ、そうだ。
お昼は、パン屋さんの近くで小さな公園を見つけて、ぶらんこに腰掛けて、
サンドイッチとミルクコーヒーでした。
工房に1時ちょっと前に戻ったとき、「外で食べてきたの?」に、

「はい、公園のぶらんこで」
って、答えたから全部で5回でした。

オーナー以外は全部女性という環境、びっくりすることだらけでした。
5人の間にちゃんと序列あるんです。
一日中ラジオがかかっているのにも驚きました。

三日目の朝9時ちょっと過ぎにつくと山本さん、もう掃除機かけていました。
「バケツと雑巾は流しの下」といわれて、机と座卓をふき、それから、
みんなのお茶碗温めた。

あの工房での一ヶ月くらいの間で、お茶を淹れたことと、お掃除。
仕事と言えばそれしか覚えてません。お昼休みのおしゃべりにうんざりして、
どうしても起きられなかった朝、10時頃、工房に電話しました。

「そう。もうあきらめたの。もう少し頑張ってみれば、
よいデザイン画けるようになりそう、と、期待してたのに残念ね。
気が向いたらいつでも遊びに来ていいよ。」

オーナーはいい人でした。
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by chigsas | 2009-08-26 06:55