28. 今日は雨 だから

私があそこで抱えていた重い心もいっしょに、戻ってきます。

「今日は雨だから、良かったら私のところでお茶、いかがですか?」
「いいんですか?」
思わず声が弾んで、鍵をもう一度締めました。

トイレに行くとき前を通るけれど、立ち止まったのは初めて。
入り口には角の丸い小型の名刺が貼ってありました。
「金田三登子」

私の部屋と同じ造りの6畳。整理ダンスの上に食器棚。
その横に電話機。タンスの横に小さな冷蔵庫、畳の上に小さなちゃぶ台。

チリ一つ落ちていないきれいな部屋でした。その時、
私の部屋がほこりっぽいのは絨毯敷いてベッド置いてるからと、
心の中で言い訳しました。

「遠慮無くどうぞ」と押し入れから座布団出してくれて。
きれいな手つきで、お茶をついでいる手元じっと見ていたからでしょう。

「指先が荒れて、仕立てものに引っかかるのよ。この頃」
独り言みたいに言います。
私のこともほとんど聞かない代わり、自分のことも言わないので、
金田さんが着物の仕立てをしているらしいと、そのときわかりました。

食器棚から最中の包み出してきて、
「昨日息子が持ってきてくれたお菓子の残り、まだおいしいから・・・。
息子、時々ここに昼寝にくるの。赤ちゃんのせいで、
夜眠れないこと有るのね。」
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by chigsas | 2009-08-30 02:34