29. 大きなため息 から

風は収まったようでした。
静かに雨が降っているのを窓越しに見て、金田さんとお茶を飲んでいると、
ふっと意識が遠くまで広がっていきました。

あなた、デザインスクールで授業中かしら、と思いました。
でも見たこともない学校の教室風景は浮かんでこない。あなたのことだから、
集中して授業受けているに違いない。
そう思ったら安心して、大きなため息ついたらしい。

金田さんが、私を見ているのに気がついた。目が合うと、にこっと笑う。
それだけで、なんだか私、本当は幸せなのかもしれないと思えてきました。

「母、私のいないときに来て・・・」
「引っ越しのあと、ご挨拶にみえたけど」
「おしゃべり好きの主婦で、誰とでもすぐ仲良しになるから、ご迷惑かけて
いるかもしれない、と思って・・・」

心にもない嘘言ってしまいました。金田さんと母さんが親しくなること
警戒していたんです。でも。
この人なら、私の身方になってくれる。そう感じました。

「私、仕事探ししなくてはいけないんです」
「必要なときには、うちの電話使ってもいいですよ」
本当に嬉しかった。

越して来て、一週間目ぐらいに
銭湯に初めて連れて行ってくれたのも金田さんでした。
銭湯が駅に行く途中にあることは知っていましたが、
二回くらい、夕方早めにシャワーに帰りました。
母さんの「そら見たこと」風の顔がシャクで、
どうしようと迷っていた日に、誘ってくれたのです。

番台でお金払うところから、服を入れる篭と棚の使い方、
蛇口、小さな木の椅子を洗って使うことなんかを手短に説明して、
さっと、離れていきます。
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by chigsas | 2009-09-01 20:45