34. 手紙を 三通

何を話したのか聞いたのか思い出せないけれど、
「ねえ、ノブちゃん、彼女に決めようよ。どーお?」
の一言で、採用されることになりました。
40くらいの「先生」とノブちゃんと呼ばれる若いデザイナーさん一人、
静かなデザイン事務所です。

「予定が入っていないなら、今日から仕事していってくれない? 
昨日までに面接に来てくれた人に、『ありがとうございました。』と
断りの手紙書いてほしいんだけれど。3人だけだから」 

「先生」は奥の部屋に消えて、ノブちゃんが便せんと茶封筒を
棚の引き出しから出してテーブルに置いてくれました。
「ボールペンか万年筆持っている?」
「はい、万年筆なら。縦書きだめなんです。横書きの便箋ありますか?」
「あ、じゃあ。・・・先生、レポート用紙でもいいですか?」
「ああ」

開いているドア越しに決まり、奥の部屋では小さく音楽が鳴り始まりました。
バッハのピアノのようでした。

私が下手な字で、どんな手紙を書いたのか覚えていません。
まず一通書いてノブちゃんが、先生に持って行くと、
二カ所ぐらい訂正されて、戻ってきました。同じ文面で3通とも書き上げて、
封筒に宛名を書いて切手を貼ったら4時過ぎていました。

これで、その日の仕事は終わり。
ノブちゃんが先生と私ににお茶入れてくれて、
ここでも私、第一日目は完全に「お客様」でした。
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by chigsas | 2009-09-11 16:36