35. じぶんの うち?

10時に来て管理人室で鍵を借りて部屋を開け、お掃除をし、
お湯を沸かしてポットに入れておく。電話があったら、名前を聞き、
「先生はクライアントと打ち合わせに出ています。昼には戻ります」
ということ。
明日からすることを、ノブちゃんが帰りに教えてくれ、
管理人さんにも紹介してもらいました。

駅までの道、夢中で歩きながら、あなたに電話しなくっちゃ、
とだけ思っていました。でも、電話に大家さんが出て、それから
あなたを呼んでくれるのを待つ間に、
何故かすーっと気持ちが沈んでいきます。

「野田さんお留守のようです」
ほっとしました。
美容院で髪をカットしてもらったあとみたいに頭が軽くなっていました。
駅の、いくつも並んでいる公衆電話、夕方近くて込んでいます。

一瞬ぼーっとしていたら、後に並んでいた女性から
「すんだんでしょ?」と低いけれど強い声。
あわてて、列を外れてから、「そうだ、金田さんに電話」と気がつきました。
もう一度隣の列の後ろに並び直しです。

「そーお。良かったこと! お、め、で、とう! 私の思っていたとおり。
早く帰ってらっしゃい。私のところで夕飯、どう?」

自分の部屋の前素通りして、流しで手だけ洗って座ると、
「ただいま」
自然に声が出ました。東町のうちよりずっと「自分のうち」です。

「ここのカツ、うちで上げるよりずっとおいしいの。キャベツ切って、
ジャガイモゆでてから、揚げてもらってきたから、ほら、まだほかほか」

金田さんは冷蔵庫からビールの小瓶を出し、グラスも二つ
ちゃぶ台に並べました。
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by chigsas | 2009-09-14 12:32