38. しごと する 場所

ゴミ捨てて戻ってきたら、
ノブちゃんはペン立てにいっぱいの鉛筆を削っていました。
「鉛筆はシャープナーで削ってから、芯はこれで尖らせておいて」
ステンレスのお皿のような道具、小さな穴に鉛筆をたててぐるぐる回すと、
きれいに先が尖ります。

「先生は、クライアントに仕事届けてくるから、
今日は、出てくるのは多分2時過ぎ・・・、
あ、それから、ぼくにお茶、くれない?」
「は、はい、すみません」

それまでぽーっと立って見ていたのでした。
あわてて、お茶淹れたのですが、これも大失敗だったみたい。
一口飲んで、ノブちゃんはキッチンへ行ってポットのお湯でお茶薄めました。

もっといけなかったのは、お昼でした。

「先生出てくる前に、お昼してきちゃう。朝めし兼ねてるから」
11時ちょっと過ぎにノブちゃんが出かけたので
私も、持ってきたインスタントコーヒーで早めのお昼にしました。

「IDEA」とか「宣伝会議」。
本棚には、本屋さんで立ち読みしていた魅力的な雑誌が並んでいました。
「IDEA」なんてきれいな雑誌はコーヒーこぼしたりするの怖いので、
「宣伝会議」の方にして、すっかり違う自分になった気分でした。

広い木のテーブルはすっきり何ものってない、
ボブにしてもらったヘア。何着てたのか思い出せないけれど、
あの頃私が持っていた服はみんな、
あの部屋の雰囲気とは合わなかったに違いありません。

「ゆっくり、お昼してきたよ。多田さんも・・・」
と言いかけて、ノブちゃん、だまってしまいました。

それから、奥の部屋のサッシュ開けにいって、
「ここは、仕事する場所だから・・・、
コーヒーとかお茶以外飲んだり食べたりしない。
クライアントとの打ち合わせもするし、特に先生は、神経細かいから、
匂いには敏感なんだ。」
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by chigsas | 2009-09-22 07:05