41. なに・・・ それ?

あなたと暮らすようになって、あるとき、
あの日のあの瞬間のあなたが、ぱっと現れました。
そういうことが何度かあって、気がついたんです。あのときには私、
自分の存在全体であなたを感じていたって。
形の上で結婚して日常的に、あなたがそばにいる状態が続いていくうちに、
少しずつ少しずつ、私の中のあなたは融けて、小さくなっていきました。

「お昼は、事務所で食べないことって、最初から言ってくれればいいのっ!」
「?」
「スリッパだって、どういうの買えばいいか、教えてくれたっていいでしょ」
私あのとき、心と体と感情と、バラバラに爆ぜて壊れていきました。

「ま、冷たいの飲んで頭冷やして、腰おろして」

テーブルをはさんで、あなたがベッドに腰を下ろすのにつられて私も、
木のスツールに座りました。
バッグをテーブルに置き、紙コップを口に持っていったけれど、
口の中カラカラなのに、そのままテーブルに戻しました。

あなた困っている、と感じました。
困ったノブちゃんの顔と先生の顔も見えました。
(ほんとはどんな顔していたか私は知らない。けれど、
何分かの間二人が私のそばに立っていた、あの大きな重い存在)

「蛇のように賢く、鳩のように素直に・・・」
「なに? それ」
「イエスの言葉だけれど、このごろ、デザイナーにとって大事なことは
これかな? って思うんだ」
「?」
41. なに・・・ それ?_a0134863_12474679.gif

by chigsas | 2009-10-08 12:49