43. なにが おこり始めた か?

「ノブちゃんの様子から、気がついていると思うけれど・・・」
といいながら先生が折り畳み椅子を持ってきて、
週刊誌をめくっていた私の横に、少し離れて腰を下ろした。

めったにないことだった、いや、もしかしたら初めてだったかもしれない。
それで私は緊張して、無意識に立ち上がった。
座るようにと、だまって手で合図する先生の動作につられて私は、
椅子の向きを変えて座り直した。

「・・・」
黙ったまま先生は肘を大きなテーブルについて足を組んで、足下を見た。
それから、背を伸ばして座り直した。

「多田さん、デザイナーのアシスタントなんかより
もっとあう仕事あると思わない?」
「?」
「女の人は、うちの奥さんの姉さん、
雑誌社に勤めている編集者なんだけれど、彼女見ていつも思うんだけど、
がんばって仕事するよりいい人のお嫁さんになる方が・・・」
「いい人が居ても、その人のお嫁さんになれないなら、どうするんですか?」

先生はまた足を組んで、今度は肘に頬杖ついてしまった。
そのまま何分かたった。ほんの数十秒だったかもしれない。
私は何がおこり始めているか全然気づかなかった。

「つまり、多田さんに、
他の仕事さがしてほしいの。多田さんにとってもその方がいいかもしれない」
「はい」
「ビジネスライクにいえば、今月いっぱい来てもらってってことだけれど、
こんな話の後で、半月もここに通うのは気分的にいやだろうから、
多田さんのしたいようでいいけれど」
「はい」
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by chigsas | 2009-10-14 07:57