49. かあさんの 字

あわてて、入り口近くのスイッチ押して部屋に明かりをつけた。

「予備校いってませんね とうさん心配してます 日曜日 昼にきなさいね」

中年の女の字、嫌い! いつも、とうさん、ばかり!
その日は木曜でした。

かあさんが入れて置いたらしいタッパー見えないふりして、
牛乳を紙パックからそのまま飲みました。冷たくておいしい、
胸に流れおちていく秋。そうだ秋だ。
田中さんの短い髪と小さな顔が目に浮かびました。

次の朝、金田さんが起きないうちに顔洗って、大急ぎでアパートを出ました。
お茶の水の駅のそばの喫茶店でモーニングのトースト。
おなかが収まると次に何したらいいかが、見えてきました。
でも、時間の計算を間違ったみたい。

まだ開いていない画材屋さんの前にしゃがんで、歩いている足を見ていると、
いろいろな靴が通ります。急いでいる白いズック、
大きな靴と並んでいく細いハイヒール。
あなたの下駄を履いた足が目にうかびました。

「すみませんん。うち、十時半開店なんです」
鍵をガチャガチャしながら画材店の店員さん、
私が店の前にしゃがんでいるのを見てあわてて駈けてしまったようで、
ちょっと息はずませています。
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by chigsas | 2009-10-30 10:25