51. 部屋と 仕事と

お勘定するとき、芦田デッサン教室への道を聞きました。
「反対側の歩道を、駅と逆の方に行って、二つ目を右に曲がるとすぐ」
と説明してから、ちょっと一息置いて
「芦田先生て、すごい絵描きさんなんですよ、ほんとは。K会の。
あたしは、小さいときからの友人なんですけどね」

昼のお客で、店は混み始めていました。

教室には、もう田中さんが三脚立てていました。
「今日は早いでしょ私。午後の授業は英語だから・・・
出なくもいいことになっているの。とくべつ。で、あなた、受験生?」

静物の載ったテーブル見ながら言う田中さんの隣に、私も三脚据えます。
「いえ。わたし、部屋と仕事探さなければいけないんです。ほんとは。」
「えっ? なに?!」
田中さん、体ごとクルっとこっちを向きました。

昨日、境事務所を首になったこと、母さんから逃げるために
引っ越ししたいことを小声で簡単に話すと
「ネ、そこの喫茶店でお茶飲みながら詳しく聞くよ。
先生、くるのは、まだまだ、だから」
さっさとバッグもって、立ち上がっています。

表通りに出てすぐの小さな喫茶店に向かい合って座りました。
窓際だけれど暗い狭いテーブルでした。

「お部屋と仕事とどっちが緊急なの?」
「部屋です。日曜日に家に帰らないと多分すぐ、かあさんが連れ戻しにくる」
「自宅はどこ? 」
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by chigsas | 2009-11-05 22:09