54. 実家って・・・ そんなもの

駅を下りると田中さんはさっさと、まだ開いている雑貨屋さんに
入っていって段ボール3個買い、店を出てすぐに、
「そうだ、紐もいるよね」
とまた、店に戻っていきます。

「風呂敷はシーツで代用しておけばいい。乗用車だから汚れる心配ないし」
と言いながら出てきました。
「田中さん、画板どうした?」私、このとき始めて気がついたんです。
「高田君がもって帰ってくれた。決まってるじゃない」

田中さんについて私は、何も知らなかったんです。
「田中さん、アパート、ひとりで?」
「んーん、早稲田の夜間に行ってる兄と一緒、道路公団に勤めているの。」
「ご実家、どちらですか?」
「実家って・・・。そんなもの、ないよ。もう父も母もいないし。」
「えっ?」

それ以上聞いていけない、と思いました。
でも、田中さんは屈託なく大まかな身の上話してくれました。

両親は早く亡くなったこと。
一緒に住んでいるお兄さんの上がお姉さんで、
結婚して北海道に住んでいること。
今は失業保険で生活していること。去年まで繊維関係の会社に5年間努めて、
その退職金でファッションスクールの入学金と授業料を払ったこと。
失業保険が切れたら、夜働くつもりでいること、
など。
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by chigsas | 2009-11-16 10:20