55. ボーっと している うちに? 

田中さんは、部屋に入ると、一回り見渡しながら、
「ここ南向きで日当りは良いし、引っ越すのはもったいない。
あの部屋は北向き、下は床屋さんだったから昼間はやかましい、
前が飲み屋さんだから夜も、時々やかましいかも・・・、
んだけど、引っ越すっかない、ね。」
夜なのに、どうして南向きだって分るのか不思議でした。
今度のアパートの周りも、どうなってたか、私には思い出せませんでした。

私が、疲れてしまってベッドに腰掛けると、押し入れから
布団や毛布を出して、「シーツ類の換えはどこ?」と聞きます。
押し入れダンスからシーツやタオル出すついでに、
私も、着るもの一式ベッドの上に出しました。

ぼーっと見ているうちに、二時間もかからないで、
明日持ち出すものがまとまりました。

「ふとんは、起きたらたたんでベッドの上に置いといて。
朝、私が来てから、まとめるよ」
「鍵、二つあるんでしょ? 一つ私に貸して。
明日、田中君の友達と二人で来て荷物運び出すから。多田さんは先に
あのアパートに行ってて。
そうだ、ぞうきん持っていって、ホコリだけ拭いておくといいよ。」

私鉄の駅まで送っていくという私に、
「今日は疲れているでしょ。早く寝なさい。私は一人でだいじょうぶだから」
と、帰っていきました。

田中さんのほうが私よりよっぽど疲れていたかもしれない、
と今思いますが、彼女の心と体の造りは、私の想像の外。
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by chigsas | 2009-11-18 11:11