63. 誰から も 行方不明

外はびっくりするほど明るくてにぎやかでした。
焼き鳥屋さんからは、客と主人のやり取りが手に取るように聞こえます。
その向こうの線路を電車が行くと、道もお店も少し揺れる。
その振動で、私の中で小さな何かかちょっと弾みました。

駅の売店は閉店間際らしく、物をしまい始めていた。

「あ、もしもし」
金田さんの声。なぜあのくらいの年の女性は、慌てて電話に出るのかしら。
金田さんらしくない。と、思いました。
「オオタです。私、会社首になったんです。
いっぱいお世話になったのにすみません。
それで、引っ越しして、新しい仕事探さなきゃあいけないんです。
近いうちにちゃんと伺います。
それから、母には、まだ内緒なので聞かなかったことに、して下さい。」
一気にこれだけしゃべって、電話きりました。

「あ、もしもし、もしもし・・・」

今考えれば、電話しない方が心配かけなかった、きっと。
一ヶ月ほどして訪ねたとき、
本当に心配だったと言った金田さんの顔思い出します。

次の日、日曜日だったはずだけれど、何をしたか覚えていません。
多分一日ほとんどゴロゴロしていたんだと思うけれど。
駅のそばのスーパーで電気の傘や必要なもの買ったんだと思うけれど。

前のアパートは自分の場所ではなかった。遠くから母さんが監視していたし。
昼間ゆっくりゴロゴロなんて出来なかったし。

ゆっくり、一日寝ていた。
多分。あのときの私は誰からも消えて行方不明。

あ、田中さんと高田君は例外。あの人たちは完全に無害だったから。
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by chigsas | 2009-12-19 19:26