64. 過ぎてしまえば 無かったも 同じ?

今思い出しても、あの三畳の空間は広々していました。
いいきもち、生まれて始めて深呼吸した場所。

私が東町の家に帰らなかったから、夕方になって母さんが大騒ぎ始めること、
最初から分かっていたのに、私、あなたに次に電話するまで知らなかった。
小兄さんにあなたが電話で、私がアパートにいったことを知らせてくれた。
それから始まった母さんの電話攻撃、迷惑だったでしょうね。
あなた、私にはちっともそんなそぶりも見せなかったけれど。

頭がワーワーになっていた母さんを、父さんが
「木実のことは、野田君にお願いするのがいちばん」
と説得したらしい。我が家ではあなたの信頼度抜群だった。
父さんはさすが、私の心の奥に起きていること読んでいたんです。
ある意味、父さんは私を信用してくれていた。
私結局、裏切ったんだけれど、父さんホントは全部知っていたりして。

でも、過ぎてしまえば、みんな、無かったも同じ。

月曜日に職安に行きました。あなたが教えてくれたから。
ほかに思いつかなかったし。
境事務所に行く途中に「職業安定所→」看板があることも思い出したんです。

九時ちょっと過ぎに行って、入り口でカウンターを見たら、
左端の方で座っている人と、目が合いました。
まっすぐそこへ行ってお辞儀したら手で椅子をさしてくれたので、座った。

「仕事さがしているんですか?」
「はい」
「職安ははじめてですか?」
「はい」
「学生さん?」
「あ、はい、一応。予備校ですが」

少しの間、考えいてようです。
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by chigsas | 2009-12-27 17:46