73. 何の 関わりもない 宇宙

喫茶店の次に私が勤めたのは、デザイン事務所でした。
やはり、新聞の地方版で見つけて、電話して、
次の週から出勤したようなきがする。
神田の古本屋街の路地を入った小さな建物の二階。

クライアントは境事務所のように大きな企業ではなくて、
小さな会社のパンフレットやダイレクトメールや葉書や、
新聞に折り込みにするチラシも作ってました。

社長も入れて10人ほど、デザイナーは2人、
アシスタント2人、カメラマンが一人、あとの社員は何していたのかしら。

私ホントに嫌なやつ。
面接のとき「境事務所でアシスタントしていました」って言ったんですから。
「境事務所はクライアントにNとかSをもっていました」って。
アシスタントらしい仕事何もしなかったのに。ただ見ていただけだったのに。

始めの三月ほどは見習いだったけれど、四ヶ月目には、
いっぱしのデザイナー気取りでした。

社長がコネで取ってきた小さなお菓子メーカーのカタログ、
任されたのが仕事らしい仕事の最初だったかな。
私、「簡単かんたん」と思ってました。たしかに、仕事は簡単なことでした、

特別のセンスもいらないしアイディアが無くたって、
前の他の人がやったことを、そのまま真似すればいい。真似するほうがいい。
ただし間違いはいけない。間違えないことが何より大事なことだったんです

でも、デザインという仕事が全然違う世界をいくつも持っているらしいこと、
その頃多分気がついていました。
あなたが集中しているのは、鏡の向こうの、
私には何の関わりもない宇宙にある世界と思っていたようなきがします。今。

「多田さん!」
朝、自分の机に、仕事を広げたところだった。
出社してきた社長の、怒声が跳んできた。

「これが、二千円のお菓子か!?」
2、3日に前に校了にしたカタログが机の上に載っていました。

「あ、ゼロ一つ多い」
一瞬ポカーンとして。
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by chigsas | 2010-01-30 11:52