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あのジャズのあとも、私たぶん音楽を聴いていない。
あなたが、私の前から消えてしまったついこの間まで。音楽を聞かなかった。

あなたの部屋で、何気なく掛けたCDでした。
そして、そのときから、私のからだは、「音楽」そのものです。
チェロ。バッハの無伴奏チェロのあの出だしのメロディ。
テンポの速いマイスキーの演奏。

夜の闇が粘り着くように私の周りをめぐって私の身体に入ってきた。
そしたらそこは、ロル・V・ステーンが身を潜めている麦畑なんです。

暗い麦畑から、遠くに、明るいホテルの窓がみえる。
窓に見える影はS・タラの男じゃなく、あなた、と思いました。

そして、見えないけれど、部屋のどこかに多絵子さんがいる。

あなたの部屋で目にとまったCDを掛けて。そのとき、それからそのまま。
ずっと、低くいつも鳴っているんです。
聞こえないくらい低く、今も。
そして私はあの麦畑に身を隠してホテルの窓を見ている。今も。

あなたの部屋で、あのとき。
音が私の中で渦を巻いて、大きなうねりになって、落ちていった、そのとき、
闇にあなたがすい込まれていく音を、聞いてしまいました。

そうすると、あのホテルの窓の影はやはり、S・タラの男 とタチアナ?

あなた、その夜(夜更けだった、んですね)海に消えた。
ほんとうに、そうなの? 
「違う!」ってわたし、言い続けていたけれど。
その夜、フェリーから海に滑り込んでいった。

「飛び込んだ」って。
皆で納得させようとしても、私は、信じなかった。けれど。
すい込まれていく音、聞いてしまった。

辰井さん、適当に優しくて、てきとうに気軽で気持ちのいい人でした。
一緒にいると楽しかったし。わたし、いつも笑ってばかりいた。

毎週一度くらい、お茶飲んだり、喫茶店でおしゃべりしたり、
しゃべらないでいたり、夕飯御馳走になったり。
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by chigsas | 2010-02-19 20:05
「おいしい。ですね」
辰井さん、やっとニコッとしたみたい、でした。

あのとき私、自分が会社の中でどんな立場にいるか、
全然気がついていなかったらしい。
辰井さんも、私に気を使ってはっきり言わなかったし。

「あのとき、おれ、だけじゃないや。
社内にいた皆一瞬手、止めて、下向いちゃった」
「そんなに社長の声、大きかったかなあ」

そのまま話が途切れたけれど、お店が混んでいたせいか、
それとも隣り合って座っているせいか、
山屋さんのときみたいに気詰まりではなかった。

忘れたけれど、いろいろ美味しく食べて、
それから、ジャズ喫茶に行ったのでした。

サックスの音がからだにぶつかってくる。
そうすると、からだから、何かが吹き出して
わたしは自由になっていく。あそこで鳴っていたのは、
兄さんたちが聞いていたのとは違うジャズだった。

それまで、「音楽」を聞いたこと無かったのかもしれない。
多絵子さんが歌ったあの歌は別だけれど。

あのジャズのあとも、私たぶん音楽を聴いていなかった。
あなたが、私の前から消えてしまった、ついこの間まで。
音楽が聞こえなかった。
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by chigsas | 2010-02-06 14:49
おかしかったので、大きな声でわらってしまいました。
社長の怒声と、私の笑い声。
仕事を始めかけていた人が、みんな凍り付いた、そうです。

「ジャズ聞いて、こんなに笑う人、始めて会ったよ」
また、私、笑いました。おかしかった。
S駅の裏のジャズ喫茶に辰井さんと向きあって座っていました。
辰井さん、前の席に座っていたデザイナーさん、
二年くらい前に入ったらしい。大兄さんくらいの年でした。
挨拶や一寸した会話はしたことがあっても、個人的に話したこと、
それまで無かったと思います。

社長がどなった、その日だったか次の日だったか
少し残業のあと、会社を出たら後ろから
「おでん、食べてかない?」
辰井さん、私が出てくるの待っていたのかしら。

大きなカウンター式のおでんやさんさん、隣り合って座って、
私も辰井さんも、何も話さなかった。ぎっしり混んでいたし、
立ち込めている湯気で、隣に座ってる人も翳んでいるみたいでした

「おれ、ビール小ジョッキ。多田さん何飲む?」
「同じ・・・」

「社長、あんなに大きな声あげることないよなあ」
「ん?」
そこにジョッキが運ばれてきて
「乾杯、元気出して!!」
「うん」
なに?? と思いながらジョッキ口に持っていきました。

私、夏に父さんの晩酌に付き合ってときどきビールのグラス一口
ってことあったけれど、ちゃんと生ビール、なんて始めてでした。

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by chigsas | 2010-02-03 04:18