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辰井さんの部屋は環状線の内側だけれど、すごく静かなところにありました。

隣が森だったみたい。部屋が沢山並んでいる大きなアパートで、
入り口に小さなキチネットがついている6畳間。

「米は、ジャーに出来ているから、おかずだけ買ってこうか。何食べたい?」
駅前のお惣菜屋さんで、揚げ物とサラダ買ったかしら。

この日も、なぜかあたし、お客さんしていた。

「ここに越してこないか?」

その日のことで、あたしが覚えているのはこの一言だけ。
「うん」て返事したんだったか、どうだったか。

次の日、帰りに私の部屋に二人でよって、
紙袋に入れた着替えを持って辰井さんの部屋にいきました。
私の部屋でレモンティをいれて、クッキー食べて。
それから、どうしたのかなあ。どこかで夕飯食べて帰った。んだったかしら。

いつのまにか私、笑わなくなっていました。

そこも、やっぱり袋小路だと気がついたのはどのくらい経ってからだったか。
その頃には、デッサン教室にも行かなくなっていました。
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by chigsas | 2010-03-31 11:54 | 小説
「かわいいね。」
って言われても。
「あたし、かわいくなんかないもん」
て、心のなかで。

なにか大きなことがおきていたのか? でも、何も起きなかったも同じこと。
私が、私でなくなっただけ。

帰りの電車の中で、
「多田さん」
「ん?」

また少したって
「ねえ」
「ン?」

「あの、きょうは俺んちへ、帰らないか?」
「・・・・・・疲れているから、あたし、乗り物弱いみたい、ごめんなさい。来週なら・・・」

よく覚えてないけれど、次の週だったか、辰井さんのアパートにいきました。

「俺、先に行って地下鉄の改札で待ってるから」
って、帰りがけに横を通りながら耳打ちしてくれて、
改札のこっちにいると思ったら向こうに出て、
なんだかそわそわしているみたいでした。
靴の先っぽ見てたようだったけれど、靴でリズムとってたような。

混んでいる地下鉄で、私は辰井さんに依りかかって。
私は彼と一諸にいると私じゃなくなるんだと、そのとき気づきました。
全然別の人、それでその人をホントの私が見ていたんです。

私、人に寄りかかりたくない。電車でも、自分でつり革握って、
立っている方がいい。なのに、今は寄りかかって下向いたりしてる。

「ふん」と思いました。
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by chigsas | 2010-03-24 19:37 | 小説
あの日、新しい勤め先のこと私一人でしゃべって、帰って来た。
帰りがけにあなた、階段の降り口で足を止めて

「このちゃん、何かするとき、それをホントにしたいことなのかどうか。
じぶんの心に、聞いてみる、ほうが、いいんじゃないの?」
「うん」

あなたはそのままそこで止まったので、私、しかたなく、
さっさと階段降りて帰ってきました。
頭の中お水でいっぱいで、ちょっと首を傾けると、
ざーっと音を立てて流れそうだった。
    
あのとき、あなた、階段の上で、なにしてたのかしら。
今は、そう思うけれど、あの時は私、
自分の頭の中の「水」を零さないように、
一生懸命からだをまっすぐにして、歩くのがせいいっぱいでした。
でも、やはりあなた、なんにも考えてなかったんでしょうね。

覚えているのはそれだけ。

伊豆の旅行、行ったんだけれど、覚えていない。
「こういう所が、いいところなのかな?」
と思いながら辰井さんについて歩いた。辰井さんは楽しそうだったし。

小さな宿屋さんに泊まって、そこで、わたしにあったことも。
よく覚えていない。
辰井さんはすごく優しかったよ。
    
優しかった、だけ。それだけ。

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by chigsas | 2010-03-17 08:31 | 小説

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by chigsas | 2010-03-13 20:35

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by chigsas | 2010-03-11 21:46
その後、デザイン会社に勤めて。なんだかずいぶん経って、
あなたに知らせておかなければと気がついたんです。

それで私あなたに、
「引っ越しました。仕事も変わりました」
ってはがき書いたら、直ぐ返事くれました。ね。
「いちど、来ませんか。」って、
あなたホントは、母さんからの電話に、
私から連絡無いとも言えなくて困ってたんですよね。

私は、うれしくなって次の日曜日にあなたの部屋に行ったんだけど。
部屋の様子は全然変わってなかったけれど、あなた、
また大人になっていて、ほんとは、また一寸遠くなったみたい、だった。

もう、あなた手の届かない所へ行ってしまうかなって、ちらっと思いました。
    
「ゴールデンウイークに、一緒に伊豆に行こうって・・・」
    
あなた、黙っちゃいました。
それから、軽く座り直して、ちゃんとこっち向いたので私が見たら、
横向いて。

それから、小さな声で
「このちゃん、なんだか変わったね」

「変わったの、野田さんの方だよ!」
大きな声がでてしまいました。
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by chigsas | 2010-03-08 07:57
週一度くらい、お茶飲んだり喫茶店でおしゃべりしたり、
しゃべらないでいたり、夕飯御馳走になったり。

「伊豆っていい所なんですって。山も海もあって」
「いず・・・。熱海の向こうの?」
「うん、辰井さん前から行きたいと思ってたんだって。
伊豆の踊り子読んで。」
「辰井さん?」
「うん。前の席のデザイナーさん。
よく、いろいろ連れてってくれるんだ、このごろ」

ずいぶん久しぶりで、あなたのアパートに行ったんでした。あのとき。

喫茶店のバイトしていた時は一度も、でした、ね。
喫茶店やめて、自分の部屋にいることが多くなってみたら、
あの部屋、居ここち良くなかった。それで、
また田中さんにお世話になって引っ越ししました。
同じ不動産紹介の店で。

「T線はどう? わたし一度住んでみたいと思ってたの。あのあたりに。
あ、これ。いいかもしれない。
Sから三つ目。便利だし。日当りはよくないけど・・・」
なんだか、自分のことみたいに、乗り気になって。
私も気分よくて、ぱっとそこに決ました。

始めて降りる駅、小さいけれどいい駅で、好きな街でした。
商店街も小さくて、駅の直ぐ近くの住宅街でした。
小さなお庭の隅に小さなアパートがあって、

田中さんて、ここでもいい勘してると思いました。           
今度は、急ぎでなかったので、運送屋さんに頼んで引っ越ししました、
少し荷物も増えていたし。
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by chigsas | 2010-03-01 08:18