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その人がいろいろ手伝ってくれる人をさがしている。
これから始めるからどうなるかは分からないけれど、
もし働くつもりがあるなら、ちゃんと面倒見てくれるように
頼んでもいい。というようなことを言って、最後に
「何かを、覚えるのにはいい環境かもしれないよ」
とても真面目な、顔でそう言いました。

急な話だったから、ただでさえ反応の遅いわたしは、
なんと答えていいか、わからなかったんですね。

高田君がポリ袋シャカシャカ音立てながら、戻ってきたので、
「明日まで、検討して見なさいね」

それで、何食べたんだったかしら、あのとき。
にぎやかにしゃべったような気もするけれど、
三人で? というか二人が

「さ、お腹もイッパイになったし、元気出して、帰ろう」

駅まで歩きながら
「田中さんの代わりに行っても、私、使い物にはならない」
「分かってるよ。・・だから、頼むのよ!」
あの一言、私の中のなにかをぱっと解いてくれたんです。

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by chigsas | 2010-05-30 15:06 | 小説
「あたしに、ってきた話なんだけれど、学校卒業したいから・・・・」
「?」
「仕事の話。・・・もう、遊んでいるのもあきたんじゃないの?」

デッサンの帰りにいつもの3人で、駅に向かって歩いていて、
何となく誰もしゃべらなくなったら、そういって、
田中さんは足を止めて高田くんの顔を見ました。

なぜかそのとき、
「あ、秋なんだ」と思いました。
人通りも途絶えていたからかしら。
ちょうど歩道ぞいの喫茶店がもう店を閉め始める時間だったからかしら。
あの時の街の明るさと言うか、暗さ。
今と違って光がもっと赤っぽかった。

私も高田君を見ると、田中さんは、
「駅の向こうに最近できたスーパー、あそこのいり口のベンチに座る?」

まただまって歩いて、スーパーのベンチに並んで座りました。
「ちょっと、お腹空いたね。サンドイッチと牛乳、買ってくる?」
「うん」
高田君が店の中に消えました。

一人で、事務所を持つことになった友人、といっても、
ずっと年上の男の人でした。
どういう知り合いなのかも説明無かったけれど、
多分勤めていた会社の関係だろうと私は勝手に決めました。

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by chigsas | 2010-05-23 21:56 | 小説
いいえ、こちらを見ようともしないで、アドバイスくれただけだった。ね? 
そうだった、よね。

親って、なんなんだろうか? 私ってなんなんだろうか? 
家族って?

そう思っても、、実際には父さんの顔も母さんの顔も、思い出しもしなかった。

鏡の向こうには、俯いているあなた。
それと、多絵子さんの、まっすぐ前を向いて歌っている顔だけ。

今、気がつくんだけれど、プールで日向ぼっこしているとき、
頭の中を行ったり来たり、浮かんでいたのは
あなたと多絵子さんだけだった、ような気がします。

ホントは何かが、私の中で起きていたのに、気がついていなかった。
だから、起きていないと同じだった。

金田さんが連れて行ってくれた美容院の椅子に座っていた私、
鏡の中で自分をにらんでいた私。あの目がホントの私だったかもしれない。

あなたは私を見たくなかった。
でも、本当の私があんな人だと、もしかしたら、
わかってくれていたかもしれない。ね、違う?

ときどきは美容院にも行くようになって、美容院の椅子に掛けて鏡に映る私、
糸が切れたタコでした。
そう。だんだん普通の子になっていたんです。

「これは私でないから、平気平気、へいきだよ」
って鏡に向かって言っていました。


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by chigsas | 2010-05-12 17:23
あなたのこと忘れていたわけではない。
私は二つに千切られて、片方の私は
あなたを抱えたままどんどん縮んで重くなっていました。

もう一方の私は、どうしていたのかしら。
もう片方の重い自分を引きずりながら、規則的にデッサン教室に通ったり、
月に一度職安に行ったり、
ちゃんとオシャレをしたり、服だってバーゲンで買うことおぼえたり、
お料理もしたり、辰井さんにも、ときどきお料理つくってあげたり、
まあ、ちゃんと暮らしてたんです。

時間もあったから。

そうだ、うちに、父さん宛だけれど、
時々はがきだって書いていたし、尤もこれは、あなたの入れ知恵でした。

「元気でやってます。だけでいいから、
おばさんに手紙書いて上げると、安心するよ。
あんなに心配してるんだから。
本当は、電話の方がいいけれど、
声で、ようすがわかるから・・・」

あなたが、あのアドバイスくれたの、いつだったかしら。
わたし、あなたの言うことは、
たいてい聞いたんですよね、いつも。

「様子なんてわかられたくないよ!」
っていいながら。

でも、あなたは鏡の向こうからこちらを見ているだけ、でした。
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by chigsas | 2010-05-04 20:10 | 小説