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普段なら多分、黙り込んでいる田中さん、
すごく怖い存在だったと思うけれど、あの日は、
あっけらかんと歩いていたんです。わたし。

「ああ、お腹空いた。」
目があって、うなずくと
「インスタントラーメン、食べるでしょ」
黙って台所に入って、ゴトゴト、じゃーじゃー、音がして、
「こっちへきて」
台所のテーブルにお丼が二つ載っていました。
もやしが山盛り。

そのあと、また黙って、ふたりで音をたてながら、ザキザキ食べました。
もやしがちょっと生だったので大きな音がしたのかしら。
匂いも豆の生の臭いみたいだった。

コップのお水をゆっくり飲んで、田中さん顔を上げました。
私、ずっと田中さんを見ていたんだ。

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「何がどうなったのか、整理して、話してみてよ。」

わたし、あのとき、なんだか、とても静かな気持ちで、
多分私は妊娠しているらしいこと。
まだ誰にも話してなかったことが言えました。
by chigsas | 2010-08-30 09:10 | 小説
もう夜だったのに田中さん、あなたのアパートまできてくれました。

あなたが、田中さんを迎えに行っている間、私がこのまま帰ったら、
全部が魔法掛けたみたいに消えるかな。と思っていました。
「ホントに帰っちゃおうか?」って考えたら、
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何かおかしくなって、一人で声を出して笑ったり。

「さあ、うちへ行きましょ」
「うん」
それだけでした。
田中さんの後について、彼女のアパートまで行きました。

私、ケロッとして、後についてというより、もしかしたら、
さっさと先に立って歩いていたかもしれません。

あなた、あの晩どうしたのかしら。たぶん、きっと、
先輩からまわしてもらった仕事を、何もなかったみたいに続けたんだ。? 

心に波を立てない人、と私、思っていたし、
兄さんや、みんなが、そう見ていた、と思う。

私は、自分が抱えている大きな重い石を、あなたの心の中に、
ぶち込んでみたかったんだ。きっと。
そして、波をたてるだけでなく、あなたの心の水底の、
泥を巻き上げようとした。でも、そんなことはできないと、分かってたよ。

田中さん、あの日自分のアパートにつくまで、何もしゃべらなかった。
by chigsas | 2010-08-25 06:46 | 小説
あなたびっくりして、テーブルの向こうで立ったまま。
手に小さな緑色の急須持って。きれいな、モスグリーンの急須でしたね。
急須のふたを押さえていた右手の人差し指、
ピーマンを解体していた指、でした。

「あたし、死んじゃうよ。子供なんか産んだら。」
「・・・・・・・」
「死にたくなんか、ないよー。こわいよーッ」

しばらく立ったままでいた、あなた。
私に何がおこっているか、やっと気づいた? らしかった。けれど。

私は、そのとき自分の言ったことも、したことも、分かっていなかった。
ほんとは、何も憶えてもいない。多分そんなことを口走ったんだ。
きっと。

泣き始めてから、どのくらいの時間が経っていたのか。
もう、涙は乾いて、テーブルに顔を伏せて、
泥の詰まった大きな袋になって座っていました。頭の中は空っぽ。

「このちゃん、たしか、親しい、友達、いたねえ。女の人で。」
バッグから手帳をだして、田中さんの電話番号見せると、あなた、
奥の部屋に行きました。

「あ、田中さんですね。・・・・・・・・・
・・・・・・・・。じゃあ、おおた、このみさんに、かわります」
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by chigsas | 2010-08-13 11:54 | 小説