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母さんよりすこし年上らしいけれど、
全然違うタイプの女の人。

小兄さんがいつか
「マサオ君のお母さん、女子高の先生だった、んだって、
話の分かるヒトらしい」
うらやましそうに言ってたけれど。

あの一番最初のあなたのアパートで。
お母様からの電話で呼び出されたあなたが戻ってきたときの、
ほんの少しだけれど不機嫌な顔と足音、
今思いだすと違和感があったのかもしれません。

あなたのお家のこと、私は全然知らなかった。
聞きもしなかったし。お兄さんとお姉さんが多分一人ずつ。
とは知っていたけれど。今もなにも知らない。
お父様があの後すぐ亡くなって、少ししてお母様も。

あなたが何度か田舎にいったけれど。
私は当たり前のように一緒にはいかなかった。

母さんのとき、父さんのときも、同じでしたね。
あたしだけ、必要最小限。

「当たり前の世の中の付合いには、入りたくない」
「そうだよね」
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by chigsas | 2011-05-30 19:15 | 小説
あたしたち、毎日なに話してたのかしら? 
あのころいつも。
毎日飽きずに話していたよね。
しゃべるのは何時もあたしだった、かもしれないけれど。

「木の実さん、あんな子を抱え込んで、大変でしょ。
親の私だって、何を考えているのか、全然分からないんだから」

なんて答えたのかしら。私。
「ううん、ぜんぜん、何思ってるか分かるもん、あたしには」

心の中でいったけれど。
今考えると、全然分かってなかったんだ。

「冷蔵庫あけていいかしら?」
「あ、はい」
お昼は、美味しい中華丼ぶり作ってくださった。
お母さま、ちゃんとエプロンもっていらしてた。
あたしが、どんな女か分ってくださってる。
嬉しかったよ。・・・ほんと。
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by chigsas | 2011-05-22 01:54 | 小説
「えっ? 野田の?」
と口の中でモゴモゴいいながらチェーンを外して、ドアをあけました。
お母様ドアから一歩下がった。
冬のさなか、中ヒールの靴、細い足と、重そうなオーバーコートの裾。

「どうぞ、お入りになって」
ちっともあなたに似ていない、と思ったのだから、
もうそのときはどなたか分かっていたんだ。   

「この辺り、若いときに一寸土地勘があったから。
駅前の交番で聞いただけでそのまま来られたの。温かなのねえ、ここ。」

あなたの事務所に電話しようとしたら、
「まだいいの、いいの。木の実さんと話したいから」
「真雄には昨日、事務所の方へ電話してあるし」

何を話されたのか、私が何を言ったのか。ほとんど記憶がない。

あの頃にはもう、私もあなたも、糸の切れたタコだったんだ。
ふたりとも。
ほんとはずっと、そんな気がしてたんだ、あたし。
そうだね、ホントにそうだったんだ。
今になると、はっきり分かるよ。
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by chigsas | 2011-05-13 17:20 | 小説
「マサオ君おふくろさん、話の分かる人、」ってあれはちがうんだ。と、
チラっと思ったの、頭のどこかで。

みんなすごい昔のこと、ねえ。
あの不思議な事務所に始めて行ったときの私、
焼き鳥屋さんでレバ焼き食べていた私も、
どこに行っちゃったのかしら。

そう言えば、あなたの「おふくろさん」に会ったのは、
結局たったの一度でしたね。

お母様が、急に東京に出ていらした。後で気がつけば、
あの頃もう、お父様の具合が相当悪かったらしいけれど。
お兄さん夫婦に任せて。

「一日だけ無理しました。気にかかっていて。
あの子、小さいときからああいう子で、何も言わないで
、思ったことを押しとおして・・・」

あなたが留守のアパートに、急にいらした。
「野田の母、でございます」
インターフォンの向こうで聞こえる声
、何を言ってるか分からなくて、

勧誘の人なら管理人室で断ってくれるはず、と、
ピントのはずれたことが頭をかすめます。

「えっ? 野田の?」
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by chigsas | 2011-05-03 17:07 | 小説