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何か違う、と3人とも感じていたのか?
いや、わたしだけは、わかっていたのだけれど。

友人もNも何かが始まると思っていたのに。
あそこでお終いだった。
あそこはお終いの場所なのだ。
そこから、子犬が一頭だけ、助け出された。

そして、ワゴン車が走り去ったから、
三人はもう、関係者ではなくなったのだ。

3人の乗る黄色い軽自動車は山の下を回る細い道を走った。
速くもなくゆっくりでもない速さ。
泥水の中を走っているみたいだ、と、思った。
友人は隣で、どこを今見ているんだろう?

ワゴン車で走り去った男たちはさっき、
若い女に顔を向けて
「じゃあ、手続きは、支所で。書類だけですから簡単です。
場所わかりますか?」
「あ、堀川町ですよね」
答えたのは運転席の若い男。女は膝の上の犬をなでていた。

私と何度も顔を合わせたことのあるワゴン車の男たちは、
この日、完全に私たち三人を無視]していた。

無視せざるをえなかった。
誰もが、仮面の顔で通さなければいけない場所だ、
・・・から。
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by chigsas | 2011-10-29 14:04
Mもわたしも、もう、その活動に疲れていた。
Mは、どうしても抜けられない仕事を抱えているので、
その日のことは、わたしが引き受けざるを得なかった。
で、車のできる友人に無理を頼み込んだ。

人に深切にしなければ行けないと思っている友人。
絶対、断らないと分かって、私は強引にに頼んだのだ。

あの建物には、誰も近づくことなど、したくない、
友人だってほんとはイヤなはずだ。

だが、あの建物は本当にネズミ色だったのかしら?
低い丘が連なる裾をくねっていく細い道、行き止まりに低い平屋。
煙突のある別棟、そして、前に立つだけで体が固く寒くなる石碑。
低い丘には樹も茂っているのに色がない場所だった。

話がとぎれたまま、駅までは、
30分以上も走らなければいけなかった。

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田んぼの中の一本道だから。
車の中の固い空気はほぐれない。

Nとは、私もその日が初対面だった。

『あの活動』の仲間Mから電話で話しを聞いただけだから。

あの、なんと言い表していいか分からない、ネズミ色の建物。

そこにガタゴト揺れながら大きな乗用車が着いて、
後ろの座席からおりてきた、
ショートカットの髪を紅く染めた女がNだった。

「Mさんが電話してくれたとおもうけど・・・Nだけど」
ザラザラした声。

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助手席から降りた若い女の方に目をやる。
「これが、犬を貰いたいっていう子」

若い女は、私の顔を見てちょっと笑って、小さく首をふった。
「よろしく おねがい します」

言葉は丁寧で、ゆっくりした優しい声だ。
キャベツの固さとパンの固まりが舌の上に留まって。
何を食べているのかしら、わたし?

「あの方、Nさんのお知り合いですか?」
友人が助手席のNに話しかけたのは
走り出して5分程たってから。三人とも黙ったままだったのだ。
友人は車を走らせることに集中していたのかしら?

「うん、ネーサンの店で働いてる、いまいちばんの売れっ子」
「お姉さん、お店なさってるんですか?」
「うん、お風呂だけどね」
車の中はまた静かになった。

春が未だ早いので、道ばたには、緑よりも枯れ草が目立った。
「この辺りは、野焼きをしないんですね」
「えっ? 野焼きって?」
「畑や田んぼを、春のくる前に焼くでしょう」

九州の山の中で育った友人と
港町の歓楽街に生まれ、そこにずっと住んでいるNさん。

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ああ、やっとすんだ。と私は思った。でも、始まったのだ。

「犬、うれしそうだったね。」
「かわいがられるよ。いいこだから」

ぱさぱさで、舌になじまないキャベツのサラダをかじりながら、
あのとき、車を走らせる友人とN さんの会話から、
わたしの心に忍び込んでしまった何かが膨らんでいく。

「いいこ」と言うのはあの若い女のことなのだ。

もうずっと昔に寂れてしまった古い港町。
バスがやっとすれ違えるほどの狭い通りを一本入ると、
崩れかけた空き家の間に、けたたましい色の家が現れる。
隣の古いビルの一階。ドアが半開きになって、
真っ暗な空間が薄目を開けている。

あの若い女の目がのぞく。
ような気がした。
きれいに澄んだ大きな瞳。素直な長い髪。

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今年のキャベツは固くて味がない。
舌に刺さる辛さだけ。
オーブントースターから、
厚切りの食パンを出す。
焼き加減が今朝は、生すぎる。
パンの水気が多いのだ。
パンは口の中で、
ゴムのように固まってしまう。