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「食べごろより、ひと呼吸早くお皿に移して、
ほかのことはみんな放っておいて、テーブルに、
なんだって。

スプーンでひとすくい。トローッと美味しい玉子の
黄身と柔らかな白身。その幸せ感! 
本当に微妙なタイミングなんですって」

あたしなら、そこにお醤油、ほんの一滴だけど
マリーさんは塩、耳かき1/2、かなぁ?
読むだけで、
卵のいい匂いもするんだから、すごーいヨネ。

「さあ!

ふわふわスクランブルエッグもグッドタイミングよ」
お皿にちょうど良く焼けたトースト、その上にスクランブルエッグ。

あ、しまった。バター温めてなかった。

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「フライパンにサラダオイル一滴。油臭くならないで、
玉子の白身がきれいにとれるオイルの量と火の強さが大事
なんだってマリーさんが書いてたよ」

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ホットプレートの上ではバターのこげる匂い、
あわてて溶いた玉子をあける。
ジューッと音がするのは火が強すぎるから?






大急ぎで箸でかき混ぜる。
そうだ、パン焼いておかなけりゃ。








食パンの包みを引きちぎるように開けて、
2枚だして、トースターに入れる。

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ホットプレートの玉子は
もう下がが固まりはじめている。







慌ててもう一度混ぜる。
よしよし、ふんわり。いい感じ。

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「いつって、ここへくる時いつも。
帰りにも、」

「ちょっとだけ回り道していつも、だよ」

ボウルに玉子を割り入れて、
牛乳を少し、よく混ぜる。a0134863_8592212.jpg

「マリーさんは、いつも目玉焼き。
それも片目でウインクたまご、なんだって。」

こたつのむこうで、あなたはパタンと仰向けにたおれる。
いつものことで、
あたしの言うことなんか耳から心までは届いていかないんだ。

ふん!
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目玉焼きを、黄身だけちょうど良い柔らかさに焼く、
なんて私には無理だから、卵に丁寧に牛乳を混ぜる。

ふんわりスクランブルエッグは、何度も練習してきたんだから・・・。
入り口にある台所スペースの、
小さな冷蔵庫。扉の棚から
卵を三つと、
牛乳パックをもってくる。
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勝手知ったる、他人の部屋。
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「マリ−さんね、あそこに住んでるんだよ」

「ん?」

「貧乏だから、お花買えない、
代わりに、お気にいりの
きれいなタオルを飾るんだって
書いてたけれど、」

「カーテンの代わりに
羽織りかけてるのかな?」 

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「小紋ていうのか可愛い模様の
素敵な羽織りなんだよ。
夜だと逆光だからみえないけれど。
外からでも、昼間なら分かるの。」

「お部屋の中から見ると反対に、
夜はきれいなんだ。ね、きっと」

「いつ、そんなとこ見てたんだ?」
格安で手に入るというので
友人3人が、そろって、
エイッと買っちゃった、のでした。

貯金なんて一円もなかったのに、あれから数ヶ月、
なに食べて暮らしてたんだった、んでしょうねえ?

そのホットプレート提げて、電車で二駅、
歩いて13分。

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おいしい卵を食べさせてあげようと、やってきた。
けど、メイワクだった、かな?

「そこの道から広い通りに出て
一本目の細い路地を入ると。あるでしょう、
古いアパート。あたしは本当は、
ああいう所に住みたかったのよ。

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二階建てじゃあないし、塀との間がゆったりしているから、
花なんか植えたりして・・・」
「卵はね 食べるタイミングが、いちばん大事、
・・・なんですって」

「ふーん」

買ったばかりのホットプレートが、
コタツの上にでんと載っていて、あとは皿が2、3枚とか、

トースター、薄切りパンが一斤とか、
小さなボウル、など。

もう春だから、コタツの中は生温いだけ。
スイッチは切ってありました。

だって、コタツとホットプレートを同時につけると、
多分ブレーカーが落ちるんだもン。  ネ。


「あそこのアパートの窓に
いつもきれいな羽織りがかかっているの、
しってるでしょ?」

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「ん?」

















アメリカ製の
ホットプレート、
お給料の一ヶ月分。

もっとも、手取りの額だったけど。
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その何日か前に、家の犬の散歩の途中で出あった犬。
あのとき、私の言葉を待つように見つめた目はしかし、
ガラス玉のような茶色だった、何の表情もなかった。

檻の中でも、同じ目をしていた? かもしれない。

そのあと、どうしたか、思い出せない。

あの毛の長い犬は、Mが友人の友人に貰ってもらった。
おとなしく人なつこくて、かわいがられているというが。

顔の黒い犬と毛の長い犬、
本当はだれが選んで、誰が決めたのだろうか。

Nのネーサンの店で、あの若い女の上を
通り過ぎていく男たち。

多くの男達。

女が選んだ若い男。
毎晩、犬と一緒に、女の帰りを待つ一人の男。
一人なのだ。

女に語りかけたのは「何」か?
男に語りかけたのは誰?

硬いキャベツ、硬いまま舌の上に、
残ったまま。

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「ホセアの女」
 おしまい

小さな檻に入れられていた犬は、
3人の男たちと一緒に若い女が現れたとき、
どんな声をあげたんだろうか? 

たぶん、どんな声も上げなかった。尻尾を振ったのだろうか? 
否、  多分。

あの若い女の前に、あの男はいつ現れたんだろうか?

私は2年ほどまえにも、あの建物に行ったことがある。

入り口を開ける、大きな檻に入れられた7、8匹の犬たちが
すぐそばにいた。
檻には車が付いていて、動くようになっていたらしい。

いっせいに私を見た犬たちの
目、目、目。何も言わない目。
わたしは、一頭だけに用事があったのに。

「あの、一番奥の、毛が長い犬ですね」
「あ、はい」
良く確かめもせずに答えた。

檻の中には、じつは、もう一頭、
顔を覚えている犬がいたのだ。
体は白いのに、顔だけが真っ黒い犬。

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けばけばしい建物、いや、
無骨な建物は古い黒っぽい茶色なのだ。
看板がケバい。
不思議なことに派手で男の欲望を挑発する目的の看板は、
建物のずっと遠くに立ててあるのだ。

年かさの女、Nかもしれないけれど違うかもしれない。
濃い化粧の顔、あかるく染めた髪、
路地を伺う男をかばうように建物に連れてはいる。
昼だのに、二人ともまるで影。

ゆらぐように、建物の入り口にきえた。
でも、いつ、どこで見たのだろうか。

見たんだ。
いや見たことなんかないはず。

あの若い女が働く建物など・・・
見たことはないはずだ。

あの犬と若い男は、
仕事から帰るあの女をいっしょに待つのだろうか?

水割りのグラスを前に、TVを見ている若い男。
傍で寝そべる犬。

女が選んだ若い男。




a0134863_16381172.jpg犬が選んだ女。
犬は退屈そうに、
骨の形に結んだガムを
かじっている。
「どうも、おつかれさまでした」
男たちの一言で私たちは解放された、のだけれど。

淫行の女ゴメルは、ホセアが現れた時、始めて彼を見た時、何を感じたのか?
神には、彼女の心の内が、みえていたはず。
ホセアを選んだのは、ゴメル。選ばせたのは神?

犬は、若い女を自分の主人と決めたのだ。
女が膝を叩いたとき。いや、彼女が檻の前に現れた時?

選んだのはゴメルのはずだ。ホセアは神に言葉を聞いただけ。
でも、本当に聞いたのだろうか?

Nさんと若い女。姉さんの店で働く?

あそこに、ネズミ色のあの心を凍らせる建物のまえに集まったのは、
女4人、それと男も4人。
3人の男は同僚で同じ色のブルーグレーのジャンパー。
若い男はどんな服装だったか、
キャベツを咬みながら、思いだそうとしても、浮かんでこない。
若い女にもその連れの男にも、もう決して会うことはないだろう。
あの犬とも。

けばけばしい建物、いや、無骨な建物は古い黒っぽい茶色なのだ。

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