82. 穴だらけのくせに 重い石

あのデザイン会社で、私が大荷物になっているらしいこと、分かりかけていた。
社長が例のお菓子メーカーのカタログ刷り直しの損害をかぶったらしいと、
誰かから聞いた。気の弱い社長は、私にやめてほしいのを言えないらしいことも、
カメラマンがちらっと言った言葉で分かった。

辰井さんの部屋から会社に通う、それも一週間が限度でした。
「疲れたんだね」
って言ってくれて、
「そう・・・」
って言ったけれど、疲れているのとは違っていた。

わたし、石だった。
濡れた泥の固まりじゃなくて、あの時は乾いた、穴だらけの石。
穴だらけのくせに、すごく重い石。

辰井さんには何も言わないで、会社やめました。
お給料日だったけれど、経理の人からお給料の袋受け取って、
気がついたらそのまま、社長の机に前に立っていました。

お辞儀一つして
「すみません、我がまま言って」
黙って社長は顔を上げて私を見ました。
眉を寄せて、持っていたボールペンを、ポンと投げるように置きました。

「やめさせていただきたいんです。」
「ん?・・・・」

「あ、そう」
社長の顔、ふっと緩んだんです。
私も、ほっとしました。
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by chigsas | 2010-04-08 14:10 | 小説