22. かんけいない 世界

S駅で無意識のうちに電車に乗り、私鉄への乗換駅で下りて、
通路歩きながら、しまった、と一瞬思いました。
外が真っ暗になっていて、そんな時間にあの道15分歩くのは怖い、
時間はかかるけど、N駅からバスならアパートのそばまでいけたのに、と。

S駅の改札からホーム、電車の中でも、私の心空っぽだったんです。
あなたの笑っている目が、浮かんでくると、下駄を履いているあなたの足を
初めて見た時の感覚が体を趨って、反対に心はどーんと重くなっていきます。
なにも考えないで、重くなっていく空っぽの心だけ抱えて、
私は電車に揺られていたのでした。

改札口から回れ右したら、あなたは、さっと自分の世界に戻っていって、
茶碗や割り箸や、私のいた痕跡をかたづけて、
やりかけの課題の続きに集中していたんでしょうね。きっと。

あの改札口には透明な仕切りがあって、そこから
あなたは私に関係ない自分の世界へと帰っていってしまった。

あんな時間に初めて乗る私鉄I線の電車、込んでいたのに、
空っぽの重い心抱えて私、一番隅の座席に座り込んでしまいました。
でも、ほとんど意識しないで降りる駅で降り、改札通って、
栗畑の横の暗い道もまっすぐ歩いて、アパートまで帰り着いたのです。
部屋の前で鍵を開けるためにバッグの中かき回しながら、
ちっとも怖くなくうちに帰れたこと不思議、でした。

あの時にはぼんやりしていたけれど、あの日、S駅の改札口から、
私にとりついていた重い心、それが何だったか、はっきり分かったのは、
ずっと後になって、あなたといっしょに暮し始めた最初の日です。
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by chigsas | 2009-08-18 10:14