62. あなたは 鏡の むこう

出かけたままの格好だったから窮屈で、口の中もきもちわるい。
開いている戸のすき間から部屋を見ると、裸電球のぼんやりした光の中に
置きっぱなしの物が、散らかっていました。

「これが、あたし。一番あたしには似合うんだもん!!」
「ザマーカンカン かあさんも、とうさもん、にいさんたちも、フン!!」
あなたの名前、でてこなかったんです。
あたしと鏡一枚隔ててすごく近いところに、あなたがいる。
そのときは、そう思いました。

鏡一枚の意味その時は、分からなかったけれど、あなたいつも、
ずっと鏡の向こうにいましたね。いっぺんもこっちには来てくれなかった。

大きく伸びしました。
窓の外は昼間よりずっとにぎやかでした。
話しながら行く男の人の大きな声。女の人の笑い声も聞こえます。
隣の部屋からテレビドラマらしい甲高い声も小さく聞こえます。

押し入れからのそっと出て、裸電球の光で腕時計見たら、
まだ9時半になっていない。
そうだ、金田さんに電話しなきゃ。ジーパンとセーターに着替えて、
トイレに行って流しで、うがいをしたら、調理台の所では
若い男性が卵を茹でていました。

「こんばんは、今日越してきました。オオタです。よろしくお願いします」
「あ、こちらこそよろしくおねがいします、○○といいます」
って丁寧に言われたけれど名前も顔も、
あのアパートを引っ越すまで覚えなかった。
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by chigsas | 2009-12-14 13:03