2009年 07月 26日 ( 1 )

でも田絵子さんは、どちらかと言えばひっそりとしている、
目立たない女の子と私は、それまで思ってました。
見かけだって美人というわけではない・・・。

「あざやかーな みどりよー あーかるーい みどりよー」
雑然とした美術室に、静かな声が、ゆっくり広がっていった時、
ぼーっとしていた私、首回して、声のほうを見ました。

みんな同じだったのか、部屋が急に静かになりました。
立って歌っていたの、田絵子さんでした。

展覧会の反省や感想など、一通りの話がすんで、
ちょっと空気がゆるんできた頃、
「だれか、歌うたいませんか? まず、くぼた君?」
とか進行係の声があって。

いつも文化祭などでもよく出てくる
あなたのクラスの人、シューベルトの冬の旅かなんか歌って、
続いて何人かあの頃はやっていたポップスとか、
映画の歌とか、よく覚えてないけれど、そんな後でしたね。

少しざらっとしているのに、やわらかに伸びていく声。
伏し目がちに、でも、まっすぐを見つめている目、
彼女の描く女の子の目と同じでした。

繊細で重い何かが彼女の中から流れて、部屋にあふれ、
そのまま窓から空へと広がっていくようでした。

歌声がやんで、一瞬静かになって拍手しながら、
向こうの隅で机に目を落としていたあなたをそっと見て、
わたしも俯いてしまいました。

誰とも口ききたくない帰り道の心の重さ、
まだ明るい春の夕方の寒さ・・・。

あれは、「青春」という言葉の明るさと寒さだった。
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by chigsas | 2009-07-26 14:25